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更新日:2024年6月27日
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当園で繁殖したシジュウカラガンの親子
かつては、仙台平野に飛来するガン類の多数を占めていたといわれるシジュウカラガン。
20世紀初めに毛皮を得る目的で繁殖地の島々にキツネが放たれたため、その数が激減し、環境省レッドリストには絶滅危惧種IA類(CR)として記載されています。
当園は1980年から30年以上にわたり、シジュウカラガンの飼育下繁殖や、生息数の増加、日本への渡りの復元に取り組んできました。
ここでは、当園が「日本雁を保護する会」およびロシア科学アカデミー・カムチャツカ太平洋地理学研究所と協力して行ってきた、日本への渡りの復活と宮城県への飛来数回復の取り組みについてご紹介します。
シジュウカラガンは頬の白い模様、黒い首に白い首輪のような模様が特徴の小型のガンです。
この頬の白い模様が小鳥のシジュウカラに似ていることが名前の由来になっているそうです。
現在、大きく2つの個体群が確認されており、北太平洋のアリューシャン列島で繁殖してアメリカ西海岸で越冬する個体群と、千島列島で繁殖して宮城県を中心とする日本で越冬する個体群がいます。
シジュウカラガンは、一年のうち、餌の少ない冬季の10月から3月を日本で過ごします。
日本にいる間、朝は日の出前に沼を飛び立ち、日中は稲刈りの終わった水田で落穂などを食べて過ごします。
そして夕方、日の落ちる頃には再び、夜間を過ごすのに安全な大きい沼や池に戻ります。
新潟県や秋田県でもその姿が見られています。
(「蕪栗ぬまっこくらぶ」によると、宮城県登米市にある蕪栗沼へのシジュウカラガン飛来のピークは11月中旬のようです。2020年現在)
飛来したシジュウカラガンは、3月頃になると北海道まで北上し、5月には再び繁殖地となる千島列島へ1700kmの渡りを開始します。
繁殖地では5-6月頃にメスが4~6個の卵を産み、オスは周囲の警戒にあたります。
ペアで大事に守った卵から雛がかえるのは約28日後です。
その後、約3か月間、オスとメスは協力し合って子育てをします。
そして雛が成鳥と同じサイズにまで成長すると一緒に日本に飛来します。
換羽時期のシジュウカラガン(尾羽が短い手前の個体/2024年6月)と抜け落ちた羽
1900年代初頭、世界中で毛皮ブームが広がり、キツネの毛皮の商業的価値が高まりました。
それに伴い、シジュウカラガンの繁殖地となっていたアリューシャン列島や千島列島の島々では、キツネの放し飼いが行なわれました。
地上に巣を作り、また繁殖期の終わりに迎える“換羽期”にたくさんの羽が抜け替わることによって空を飛ぶことが出来ないシジュウカラガンは、捕食者であるキツネから逃げることが難しく、生息数は急激に減っていきました。
そして、1935年以降、日本への飛来が確認されなくなってしまいました。
その後、毛皮ブームが世界恐慌で幕を閉じ、1940年頃に養狐業が中止されると、冬期のエサ不足や狩猟によってキツネの生息数は減少し、現在は、ウシシル島など一部の島を除いて千島列島から消滅したと言われています。
しかし、シジュウカラガンが、自然にその数を回復させることはなく、日本へ飛来するシジュウカラガンの個体群は「絶滅した」と言われていました。
エカルマ島での放鳥の様子(平成16年8月)
シジュウカラガンが再び日本で発見されたのは、1961年、宮城県北部の伊豆沼でした。
その後1965年、70年にもマガンの群中に1羽ずつ観察され、1972年にも3羽ほど観察されました。
この状況を受けて、当園は、ガン類とその生息地の保全に携わる「日本雁を保護する会」と共同でシジュウカラガンの羽数回復と渡りの復活に取り組むことにしました。
1982年にはシジュウカラガンの繁殖を行う施設「ガン生態園」を開園しました。
その翌年には、先にアリューシャン列島の個体群の回復に成功していたアメリカから日本へ15羽のシジュウカラガンが送られ、当園に9羽、東京都多摩動物公園に6羽が運ばれました。
八木山動物公園のシジュウカラガン繁殖施設「ガン生態園」
アメリカから譲り受けたシジュウカラガンは順調に繁殖したため、1985年からは繁殖した個体を越冬地の宮城県や中継地の北海道で放鳥しはじめました。
マガンと共に繁殖地へと渡ることをねらい、1991年までの7年間で37羽を放鳥しましたが、行方不明や北帰しない残留個体が多く十分な成果は得らませんでした。
ガンの仲間は「初めて飛翔を覚えた地域を繁殖地として認識する」「渡りの経路は学習によって覚える」といった特性があることが知られています。
これらの特性をふまえると、日本のような越冬地ではなく、繁殖地での放鳥がより効果的です。
事業開始当時は、日本とソ連の間の政治的な壁によって共同事業ができない状態でしたが、1991年にソ連が崩壊し政治体制が変化したことを契機に、1992年に日ロ米共同事業が合意、そして1994年から仙台市、日本雁を保護する会、ロシア科学アカデミー・カムチャツカ太平洋地理学研究所(当時は、生態学研究所と呼ばれていた)による千島列島での放鳥事業が始まりました。
数々の検討を経て、放鳥する場所は千島列島の中部にある“エカルマ島”に決まりました。
ここは、かつてシジュウカラガンが繁殖していた場所であり、水場や餌となる植物が多いことや隠れ場となる低木があちこちにあること、そして何よりキツネが生息していない(生息痕跡がない)ことがシジュウカラガンの繁殖地として適していると考えられました。
放鳥事業の3つステップと実施主体は表1のとおりです。
京都通信社『シジュウカラガン物語~しあわせを運ぶ渡り鳥、日本の空にふたたび!』
呉地正行・須川恒編より改変
ステップI
当園で繁殖したシジュウカラガンをカムチャッカの施設へ移し、現地での飼育繁殖する
ステップII
施設で生まれた1-2か月齢の若鳥を、エカルマ島へ運び放鳥する
ステップIII
若鳥は2か月ほど島で自力で生育し、3か月後には日本まで自力で渡る
という3つの段階を経ることで“日本への渡りの復元と野生個体数の増加”を図りました。
様々な試行錯誤の結果、この事業を通じて「渡りの経験がなくとも、2歳以下の若い個体を大きな群れで放鳥すれば、越冬のために南へ渡る傾向が強まる」ことが明らかになりました。
2015年11月宮城県大崎市美里町(雁を守る会・瓜生篤氏撮影)
本格的放鳥が始まり平成17年(2005/06年)冬に11羽の標識個体が飛来しました。
11羽のうち7羽はその後も毎年飛来し続け、日本までの渡りの経路を学習したものと推察されました。
その後、標識個体が幼鳥と共に家族で飛来したことから、日本への渡りが次世代へ引き継がれていることが確認できるようになり、飛来数は毎年顕著に増加するようになっていきました。
グラフ1.エカルマ島での放鳥数と日本への飛来数(日本雁を保護する会)
平成26年度(2014/15年)冬にはついに自立的回復の目安となる1000羽を初めて超え、2017年には82年ぶりに仙台市内への飛来も確認されました。
さらに2021年にはかつての越冬地である七北田低地(仙台市、多賀城市)に数羽が飛来したのが確認されました。
平成23年11月宮城県伊豆沼にて日本雁を保護する会・瓜生篤氏撮影
こうして日本へ渡るシジュウカラガンの羽数は復活しましたが、一方で日本ではガン類が越冬できる湿地が減少し、宮城県北部などの残された湿地にガン類が一極集中することが課題となっていました。
例えば、多くの渡り鳥が一カ所に集まると感染症が広まった際に感染の拡大が起こりやすいなどリスクが大きくなります。
そこで、ガン類の越冬地を広げるために、宮城県北部の蕪栗沼周辺では冬に田んぼに水をはる「ふゆみずたんぼ」(冬期湛水)が始まりました。
これにより田んぼの生態系が豊かになり、鳥類の糞が良質な肥料となって農薬や化学肥料に依存しない栽培ができるようになりました。
農家にもメリットがあることが認識されて、ふゆみずたんぼが普及し、ガンと人間が共存する仕組みが形作られたのです。
ビジターセンター展示写真
放鳥事業は終了しましたが、当園は、日本国内の動物園で飼育されるシジュウカラガンの繁殖を管理する“個体群管理”の役割を担っています。
また、生息地とつながりを持ち、生息地の保全に寄与していけるよう、かつての越冬地である仙台市に飛来するシジュウカラガンの飛来状況を把握しています。
また園内では、展示や教育活動などを通じて、渡り鳥や湿地の重要さについての普及啓発を行っています。
学校などの団体向けには、SDGs15「陸の豊かさを守ろう」とSDGs17「パートナーシップで目標を達成しよう」に関連する学習の機会を提供しています。
興味のある方は以下のページよりお申込み下さい。
現在、当園は「施設長寿命化再整備計画」に着手しており、園内のエリアをI・II・IIIの3つに分けて大規模改修を予定しております。
エリアIIIには、その中では、日本固有種を集約し、順路に沿って人里~里山~奥山と連なる日本の自然とそこに生息する動物を見て感じて学べるような展示を予定しています。
なかでも人里ゾーンの水禽類の展示においては、「シジュウカラガン・マガンをはじめとする渡り鳥は、休息地や繁殖地として湿地を必要としていること、また、宮城県内にある湿地を訪問したり、消費者として保全に貢献したりすることができる」ことをコンセプトとして、学習効果の高い展示を目指しています。
詳しくは以下のページをご確認ください。
お問い合わせ
仙台市建設局 八木山動物公園 飼育展示課
仙台市太白区八木山本町1-43
電話番号:022-229-0122
ファクス:022-229-3159