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更新日:2023年10月11日
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目次
ITを活用して業務効率化を図った事業者や新設備導入により生産性向上を図った事業者などを取材し、その取組を「生産性向上事例集」として紹介しています。生産性向上等のポイントを分かりやすく紹介していますので、是非ご覧ください。
株式会社関・空間設計 仙台市青葉区本町2-1-8第一広瀬ビル9F
関・空間設計は学校や役所などの公共施設をはじめ、さまざまな建築物の設計に関わっています。社員数約30人に対して、進行するプロジェクトは常時40~50件。一人が複数のプロジェクトを担当するなかで、効率化と職場環境の改善に向けITツールを導入。最大の課題だった長時間残業の削減にも確実に効果が表れています。
東京本社の設計事務所から1996年に分社独立以降、株式会社 関・空間設計は東北を代表する設計事務所として、学校や役所などの公共施設をはじめ、さまざまな建築物の設計に関わっています。社員数約30人に対して、進行するプロジェクトは常時40~50件。こうしたなか、業務効率化と職場環境の改善に向けてITツールを導入。その背景や導入後の変化などについて、企画部長の佐藤究さん、企画部リーダーの宮腰紀子さんにお話しを伺いました。
震災以降、長時間残業の常態化が大きな課題に
――ITツール導入のきっかけを教えてください。
今でいうと「働き方改革」への対応がきっかけです。当社のような建設設計業務に携わるスタッフは、設計業務に注力するあまり、長時間労働になりがちです。もともと一人が複数プロジェクトを担当する体制になっており、そこに東日本大震災以降の復興関連業務が次々と重なり、当時は月100時間超の残業が常態化していました。
――業務に追われ事務所の雰囲気も殺伐としていたのでしょうか。
殺伐というより、図面や資料などあふれてスタッフが埋もれて互いの顔も見えないような職場環境でした(笑)。今と比べて生産性や職場環境が悪く、このままだと建築設計の仕事自体は好きだけれど働き続けられない、と退職者も出始め、この状況を変えなければと取り組みを始めようという矢先、労働基準監督署の調査が入ったのです。
――調査にはどのように対応されたのでしょうか。
いくつかの是正指導があり、まずはその対応をすぐに行いました。労働基準監督署から指摘があったところの改善で終わらせるのではなく、当社として従来の働き方を根本的に変えていく良い機会と捉え、社を挙げて取り組むこととしました。
――当時は何が課題となっていたのでしょうか。
まずは社内でワークショップを開き、さまざまな観点から問題点の洗い出しを行いました。その結果、経理処理や対面での会議などほとんどが人手を介して行うアナログな部分が非効率の要因となっていることが分かり、これらを改善することで残業時間の縮減が見込めることから、支援事業者の協力も得てIT化の検討に着手しました。
各部門の用途に合わせたITツールを導入
――IT化は何から着手されましたか。
はじめに経理部門で労務管理システムを導入し、経理業務の効率化と残業時間の可視化に取り組みました。それまでのタイムカードを廃止して、勤怠管理に関する手続きがスマホできるようになりました。その勤務情報を給与システムと連動させることで、集計の手間が格段に軽減されました。また、勤務時間や残業時間の可視化により「社員が健康に働けているか」「業務量が適正か」などの観点からの労務管理も適切に行える体制にしました。
――労務管理以外にもITツールを導入されたとお聞きしました。
プロジェクトの進捗や受注情報を容易に管理できるよう、「kintone(キントーン)」を導入しました。以前は案件ごとの受注金額、スケジュール、売上時期など顧客から得た情報を営業部門でそれぞれ管理し、用途に合わせて集計表に転記し直す手間がかかっており、必要な情報がすぐ参照できず効率が悪いと思っていました。「kintone」は多様な機能がありますが、自社の業務に合わせて必要な情報を自分たちで自由に編集できるところが特に便利だと感じました。情報の一元管理ができて、必要に応じて簡単に取り出せることで、業務効率が大きく改善しました。
――IT化による効果はいかがでしたか。
システム導入前まで月平均約80時間だった残業時間は、導入後にほぼ半減しました。もちろん、システム導入によりすぐ劇的な変化が現れた訳ではなく、図面など紙での情報共有から、データでの情報共有にするなど、一つひとつの業務の非効率的な要素を洗い出し、仕事のやり方自体を改善しながら取り組みを進めた結果だと思います。
図面などの情報共有は紙からデータへ
――情報共有の方法はどのように変わりましたか。
これまでは、基本的にはプロジェクトに関係するスタッフが集まって、図面を紙で出力し、それを使っての会議でした。設計部門は、一人が複数のプロジェクトを担当していますので、会議の時間調整やその準備にも手間がかかる上、会議後の図面の修正は、やはり紙に出力して確認するというプロセスで、今から振り返れば、かなり多くの時間と紙をそれに費やしてしまっていたと思います。それがチャットツールの導入により全てオンライン上で行えるようになりました。
――チャットツール導入による効果はいかがですか。
やはり時間の効率化に大きく寄与していると感じます。プロジェクトごとに必要な情報や記録はそれに関係するスタッフ間で即座に共有でき、指示やアドバイスするための時間・場所の制約なく可能となりました。以前は進捗状況を上手く共有できず、スタッフが自分一人の考えで設計を進めてしまい、ある程度の段階で修正が必要となり手戻りが発生することもありましたが、今では図面や進捗状況の情報をデータでタイムラグなく共有でき、そうした手戻りもほとんどなくなりました。また、情報共有のために対面の会議を設定する必要もなくなったことで、リモートワークも可能となり、コロナ禍でプロジェクトを止めることなく対応できたことも成果です。
――データ化により紙の使用量はどう変わりましたか。
激減しましたね。以前は各自のデスクに膨大な量の書類や分厚いファイルが積み上がっており、事務所内の見通しも悪く、時間だけでなく空間の利用の面からも効率が悪い環境でしたが、図面など全てデータ化することで事務所内もすっかり整理できました。働き方改革に着手した当初から始めたペーパーレス化の取り組みは5~6年がかりで進め、設計スタッフのフリーアドレス導入が可能となりました。
――IT化にあたり外部からサポートを受けましたか。
以前からサーバーのメンテナンスなどでお付き合いのある富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社さんから、手厚いサポートをいただきました。いざ新しいシステムを取り入れようと思っても、それがどのようなもので、本当に効果がでるのか分からないものには投資できないですよね。そこで導入を検討しているシステムのデモアプリを用意いただき、実際の操作性を試しながら「こういう使い方ができます」「この情報を紐付けると便利です」など、事細かなアドバイスをいただきました。おかげで「これなら当社も使えそうだ」という実感を持つことができました。
新分野を切り拓ける設計事務所を見据えて
――IT化は、初めからスムーズに行えましたか。
設計業務は時間をかけるほど良いものができるという先入観から、当初は効率化という考え方に抵抗感を抱く人もいましたし、経営層では、IT化によりこれまでの経営情報の見え方や管理方法が変わることに対しても、その必要性や、それが直接的に売上増加につながるのか懐疑的な意見もありました。けれども、実際にやってみなければ分からないこともありますし、アクションを起こさなければ何も変えられません。経営層に対して、費用対効果など具体的に効率化のメリットを示す資料を作成し、まずは導入への理解を得るところから始めました。また、労働基準監督署からの指摘も後押しになったと思います。
――業務効率化、職場環境の改善進みましたが、実際の社内での反応はいかがでしたか。
それまでの仕事のやり方を一気に変えることは難しく、時には後戻りしてしまうこともありましたが、スタッフ間で課題や情報を共有しながら、少しずつ改善に取り組んだ結果、以前は職場環境を起因とする退職者が数名出る年もありましたが、最近はゼロとなり、着実に効果が表れていると感じます。また、こうしたITツールによる確かな効果が実証されていますので、新たな取り組みに対して経営層からの了解を得やすくなったように感じます。
――今後の展望について教えてください。
業務効率化により生まれた時間で、新しい知識・技術の習得など、これまでできなかったチャレンジが可能になりました。私自身、業務効率化により生まれた時間で自分のクリエイティビティを高めることに役立てられたと感じています。設計業務はクリエイティブな仕事。業務以外からも得られる知識や経験も重要です。そうした経験等を通じて、一人ひとりがクリエイティブなスキルを高めることで、新たな分野でも活躍できる設計事務所を目指していきます。
――本日は貴重なお話、ありがとうございました。
取材日:令和5年8月17日
事業者情報
仙台市青葉区本町2-1-8第一広瀬ビル9F
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