人や動物の腸内にいる大腸菌の中で,人に対して病原性があるものを「病原大腸菌」と呼んでいますが,その中でもO157などの「腸管出血性大腸菌」は特に感染力の強い菌として知られています。
ここでは,平成13年の3月と4月に発生した腸管出血性大腸菌O157による食中毒事件について紹介します。
(O157についての詳細は,ここをクリック!)
事例1(平成13年3月)
- 滋賀県,岡山県,奈良県の3県にまたがり発生
- 患者数6名,うち入院2名,溶血性尿毒症症候群(HUS)発症者なし
- 潜伏期間は平均4日(2.5~7日)
- 原因は,あるチェーン・レストランの『ビーフ角切りステーキ』
- この原料肉は,肉を柔らかくするため,食肉加工施設でテンダライズ処理とタンブリング処理をし,さらに結着処理をしていた。
- 原料肉と同じ輸入ロットの食肉より同じDNAパターンのO157が検出された。
- 原料肉に付着していたO157がテンダライズ処理,タンブリング処理,結着処理されることにより肉の内部まで入り込んだ
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調理の際に肉の内部まで十分に加熱されずO157が残存
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食中毒事件発生
《参考》肉の内部に微生物汚染を拡大させるおそれのある食肉の処理
テンダライズ処理
肉に針状の刃を刺し通し,原型を保ったまま硬い筋や繊維を短く切断する処理
テンダライズ処理機械(テンダライザー)の一例
タンブリング処理
調味液を機械的に浸透させる処理
結着処理
いくつかの小さな肉を結合させ一つの肉に整形する処理
【その他】
- ポーションカット
肉塊又はひき肉を金属製容器にきつく詰め,凍結して形を整えた後,一定の厚みに切ること
- タレかけ
小肉塊を容器包装に入れた後,調味液を加えること
- 漬け込み
小肉塊を調味液に浸漬すること
- ミキシング
小肉塊に調味液を加え,ミキサーで揉みほぐすこと
※上記のような処理を行なった食肉を包装して販売する場合,表示が必要となります。
食肉を販売する時または肉料理提供時の注意!!
テンダライズ処理やタンブリング処理,結着処理を行った食肉は,肉表面の汚染が内部まで浸透する危険があります。このような処理を行った食肉は,調理の際中心部まで十分に加熱することが必要です。
よって,このような処理を施された食肉を包装して販売する場合は,下記の表示が必要となります。
- 上記の処理を行なった旨
- 飲食に供する際にその全体について十分な加熱を要する旨
当該品が包装されていない場合は,上記の内容について消費者への情報提供を確実に行ってください。また,飲食店において調理する際は,中心温度の確認をして提供する必要があります。
『牛タタキ』は,生食用食肉ですので,生食用食肉の衛生指導基準を守り製造してください。なお,原料肉の調味処理は今回の事例のように肉内部の汚染のおそれがありますので行わないでください。
事例2(平成13年3~4月)
- 千葉県,埼玉県,神奈川県等1都6県で発生
- 患者数240名,入院82名うち溶血性尿毒症症候群(HUS)発症者13名(2~10歳)
- 潜伏期間は平均4.9日(0~15日)
- 原因は,ある食肉製品製造施設で作られていた『牛タタキ』と『ローストビーフ』
a)『牛タタキ』
- 原料肉より同じDNAパターンのO157が検出された。
- 再現試験の結果,調味過程で肉表面の菌の汚染が肉の中に入り込むことがわかった。
- 肉内部に浸透したO157が表面だけの加熱調理では死なずに残ったことが原因と考えられた。
b)『ローストビーフ』
- 『牛タタキ』とは製造施設は同じであるが,原材料や製造方法は異なっていた。
- 『ローストビーフ』自体は食品衛生法の製造基準に従った加熱がされていた。
- 以上のことから,製造施設もしくは調理施設において,製造後の『ローストビーフ』が『牛タタキ』から二次汚染を受けたと考えられた。
小さいお子さんのいる家庭では特にご注意ください!!
事例2では,購入した『牛タタキ』を家庭に持ち帰って食べた方以外に,販売店で試食した子供たちの中で重症化した例がありました。
幼児,子供については,抵抗力も弱く症状が重くなるケースが多いので,牛刺し・レバー刺し・牛たたき等の生肉や,中心まで十分に加熱されていない食肉は食べさせないよう注意してください。
腸管出血性大腸菌O157
特徴
- 牛や羊など動物の腸管内に生息し,糞便を介して食品や井戸水などが汚染されることがある。
- ベロ毒素という猛毒を産生する。
- 感染力が強く,少量の菌数で発病する。
- 乳幼児や高齢者では,重症になりやすい。
- 加熱(75℃で1分以上)で死滅する。
感染経路
- 菌が口から入って感染する(経口感染)。
- 菌が付着した食品を調理した器具類を介して,別の食品を汚染(二次汚染)することによる感染。
- 感染者の便や吐いた物などからの二次感染
症状など
- 腹痛,下痢が主です。発病後1~2日で血便になることも。
→出血性下痢があったら・・・直ちに病院へ、患者便にふれないこと
- 潜伏期間/4~9日
予防のポイント
- 十分に手洗いをする。
- レバーなど食肉は十分加熱し,生食は控える。
- 食品(野菜など)は十分に洗う。
O157などのように感染力が強い場合、二次感染を起こすことがあります。
二次感染を防ぐためには
- 患者の便や吐いた物を処理するときは,ゴム手袋を使うなど衛生的に処理をしましょう。もし触れたときは,逆性石鹸(薬用)や消毒用アルコールで消毒し,流水で十分洗いましょう。
- 患者の糞便や吐いた物がついた衣類などは,煮沸や薬剤で消毒したうえ,家族のものとは別に洗濯し,日光で十分乾燥させましょう。
- 風呂は患者と一緒に入るのは避け,水は毎日替えましょう。下痢をしている人はシャワーにするか,最後に入浴しましょう。
※「腸管出血性大腸菌」や「食肉の表示」に関する情報